特 集

〈こけし絵付け体験〉
こけしと暮らし
すべてがつながる、鳴子らしさ

情報掲載日:2022.04.06
※最新の情報とは異なる場合がありますので、予めご了承ください。

 

鳴子地域に古くから根付く、こけしづくり。

丸い頭に円筒状の胴、やさしい表情の顔。
和風で素朴な佇まいが印象的な、伝統工芸です。

 

こけしの魅力は、その見た目だけではありません。

 

鳴子に暮らす人々の技術や伝統、
自然と調和した暮らしぶりが、こけしを通して見えてきます。

 

 

 

 

こけしの微笑みに引き寄せられて

 

山々に囲まれ、豊かな自然が広がる鳴子温泉。

JR鳴子温泉駅を降り立ち、硫黄の香りを感じながら駅前を歩くと、
街のいたる所にこけしをモチーフにした看板やモニュメントを目にします。

 

 

防火水槽にも、こけし。

 

 

「こけし通り」の看板も、もちろんこけし。

 

 

こけし通りの看板を過ぎて少し歩いた先に、
「桜井こけし店」はあります。

優しく微笑む、大きなこけしが目印です。

 

 

古民家を活かした和の外観。歴史を感じられる佇まいです。

 

 

人の背丈以上ある、こけしのモニュメント。ひときわオーラを放っています。

 

 

ガラガラガラ、とお店の引き戸を開けると、
和の空間とともに、センス良く並んだこけし達が
あたたかく出迎えてくれました。

 

存在感のある伝統こけしを始め、
パステルカラーが印象的な現代風のこけしなど、
伝統と独創をあらわす、多種多様なこけしを見ることができます。

 

 

歴代のこけしが並ぶ様子は、さながら、こけしのミュージアム。

 

 

海外からも注目を集める〈リフレクションズ〉シリーズ。 美しいフォルムと、
暮らしに馴染むようなくすみカラーが素敵です。

 

 

 

 

 

こけし工人になりきって、いざ、絵付け

 

桜井こけし店の絵付け体験の特徴は、
こけし工人さんと同じ手法で、絵付け体験ができるということです。

 

実際にこけしを書く時に使う墨と染料を使い、
ミズキという木を使った生地に、絵付けをしていきます。

 

 

黒、赤、緑の三色。

 

 

「当店では、より本格的な絵付け体験をしてみたいという方はもちろん、
家族や友人、カップルなど、
幅広い年代の方に楽しんでもらっています」

 

そう話すのは、桜井こけし店スタッフの小林ひとみさんです。

ひとみさんに教えてもらいながら、早速絵付けをしていきましょう。

 

 

スタッフの方が丁寧に教えてくださるので、初心者やお子さん連れの方にも安心です。

 

 

まずはじめに、手回しろくろを使って、
こけしの胴体にろくろ線を入れていきます。

 

何も使わずに線を書くと曲がってしまいますが、
手回しろくろを使うことで線がまっすぐに入ります。

 

 

こけしの生地をろくろにセット。

 

 

「染料はほんのちょっとだけ付けて
線がにじまないように、サッと線をいれること」がコツ。

自分が色を付けたとは思えないほど、
綺麗に、まっすぐ、ろくろ線を入れることができました。

 

 

くるくる回る胴体に、筆を少し付けると、線がフワーッと入ります。

 

 

思った以上に綺麗に線が入り、ご満悦の様子。

 

 

 

 

 

 

絵付けは、自分を見つめる時間

 

ろくろ線が入って、一気にこけし感が出たところで、
いよいよ本命、こけしの顔を書いていきます。

 

顔のパーツは、描く順番が決まっています。

まゆげや目など、黒の墨で描く部分を先に仕上げてから、
赤、緑の順番で描いていきます。

 

全体のバランスや完成度に直結するため、
この順番を守ることが大切だといいます。

 

 

絵付けの手順がイラスト付きでわかりやすく紹介されています。

 

 

綺麗に仕上げるためには、順番を守ることが大切。
なんだか自分のことを言われているようで、思わずハッとしました。

 

私はどちらかというと、マイペースな性格で、
順番や型を守らず、決められた順序で物事を行うことが苦手です。

 

絵付けは、どの順番で描いても完成します。

ですが、“ものを綺麗に仕上げる”には、
順番や決まりを守るということが、完成度の高さにつながるのだなと
すとんと腑に落ちました。

絵付けには、自分の行動や性格を見つめ直すような、
妙に納得させられる力があると思います。

 

 

夢中になって筆をもったのはいつぶりだろう。大人だからこそ、こんな時間が必要。

 

 

先程のろくろ線と同様、染料は少量だけとって、
ためらわず、迷わず、描くこと。これが大事です。

 

一発描きだとなかなか難しいので、別の紙に下書きをして、
自分が「いける!」と思ったタイミングで筆をとるといいようです。

 

 

緊張してしまい、少しまゆげが太くなってしまいました。ですが、それも一つの思い出に。

 

 

特に描いていて楽しかったのは、胴体に描く菊の模様。

頭部模様の〈水引手〉や菊の模様には、
どちらもお祝いの意味が込められています。

 

「鳴子こけしは、子供の玩具としてだけではなく、
結婚祝いや誕生祝いなど、縁起物としても重宝されています。
お土産や贈り物にも喜ばれることが多いんですよ」

 

菊の花びらに見立てて、一本一本、筆をしなやかに走らせます。

 

 

筆圧に気を付けて、細かく丁寧に。難しいけど楽しい時間です。

 

 

描き終わったら、乾かして、仕上げにミツロウを薄く塗っていきます。

ミツロウを塗ることで、手触りがなめらかになり、
より自然な風合いに仕上がります。

 

 

スタッフの児玉紗也加さんにミツロウを塗ってもらいました。

 

 

そして、ついにオリジナルこけしの完成です。

時間をかけて絵付けしただけあって、
納得のいくものが出来上がりました。

 

「不思議なことに、こけしは描いた人に似ているんです。
表情や顔のパーツなど、まるで人柄が滲み出てくるようで、
そこがこけしの面白いところだと思っています」

とこけしの奥深さを語るひとみさん。

 

自分の分身ができたようで嬉しい気持ちになります。

 

 

完成品を並べると、それぞれの個性や違いが見えて面白い。

 

 

「はい、こけし!」こけしと一緒に記念撮影。

 

 

 

 

 

こけしの原点に立ち返る

 

桜井こけし店のこけしを作る櫻井家は、
鳴子系こけし工人の中でも古い家柄のひとつとして知られています。

現在は五代目の櫻井昭寛さん、
六代目の尚道さんの親子二人で
こけし作りを行なっています。

 

先代達の技術や想いを受け継ぎながら、
柔軟な思考と探究心のもと、常に新しい表現を取り入れようと
時代に合わせた形で、鳴子らしいこけしを生み出しています。

 

 

木材そのものの木目や色合いを活かした〈kiji〉シリーズ。柔らかな質感が素敵です。

 

 

2017年に「株式会社こしき」を立ち上げ、
現在では、こけしの販売の他、海外展開や
ギャラリー・カフェの運営、鳴子観光プログラムの提供など
幅広く活動を行っています。

 

そんな桜井こけし店と鳴子の暮らしに魅せられて、
お店で働いている、ひとみさんと紗也加さん。

 

 

児玉紗也加さん(写真左)は大崎市古川出身、小林ひとみさん(写真右)は北海道出身。
桜井こけし店で働くようになってから、鳴子に移住してきました。

 

 

桜井こけし店との出会いを、ひとみさんはこう話します。

 

「お客さんとしてお店を訪れたのがきっかけです。
もともとこけしに詳しいわけではなかったのですが、
なんて素敵なところなんだろう、と心惹かれるものがありました」

 

「そして、櫻井親子からこけしや鳴子温泉に対する思いを聞くうちに、
こけしの奥深さや面白さを知りました。
自分もこけしの魅力を伝えるお手伝いをしたいと思い、
鳴子温泉に移住して働き始めました」

 

 

「こけしって、家ごとに模様や顔が違うんです。
見慣れてくると違いが分かって面白いですよ」とひとみさん。

 

 

人の心を魅了する、鳴子こけし。

ひとみさんに、こけしのどんなところが面白いか訊いてみると、
「こけしが出来上がるまでの過程、そして
鳴子の暮らしと密接につながっているところ」
と返ってきました。

 

「こけし工人は、こけしの材料となる木の仕入れから、
皮むき、乾燥、木地挽き、描彩まで、
すべての作業を行っています。

こちらに来てから初めて知りましたが、山に囲まれた鳴子では、
木と向き合う場面が本当に多いのです」

 

 

四季の移ろいを色濃く感じる鳴子温泉。
山に囲まれた土地だからこそ、 自然の恵みを受けています。

 

 

桜井こけし店では、年に一度、地域住民や地域団体とともに
植樹祭を行っています。

「自分たちの手で木を植えて、次の世代に繋げていきたい」という
先代からの想いを受け継ぎ、継続して木を育てています。

 

こけしの技術、伝統はもちろん、
鳴子の自然、歴代の想いを、未来へつなげていくこと。

 

1本のこけしが出来上がるまでには、
長い年月をかけて、鳴子の自然、木と向き合う人たちがいてこそ
初めて成り立つのだと、深く納得しました。

 

 

こけしづくりは、素材づくりから。こけしに対する見方が、これまでと変わりました。

 

 

 

「養蜂も行っているので、生産したミツロウを
今後はこけしの仕上げ用に塗るものとして使っていきたいですね。

鳴子の山を歩きながら絵付け体験を行うツアーも企画してみたいです」とひとみさん。

 

こけしづくりの奥深さを伝え、次へつなげるために
桜井こけし店は今日もこけしと向き合っています。

 

自然と調和した暮らしの中で、
豊かな発想と伝統が息づく鳴子こけし。

ものづくりへの思いに触れる絵付け体験は、
きっと豊かな時間になることでしょう。

 

 

 

 

(撮影: 佐竹歩美・足利文香)

 

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足利文香|ツナグ編集室

宮城県大崎市生まれ、岩手県盛岡市在住。地元大崎市と岩手を行ったり来たりの2拠点生活をしています。やさしい日常や想いを映した写真・デザイン・ライティングを手がける「Living dedepo」主宰。野鳥、歌、クリームソーダが好き。

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